vol. 52-1 (2006)

Volume 52, Number 1(2006)

日本繁殖生物学会賞・技術賞
卵胞嚢腫の発生機序の解析とCIDRを用いた治療法の開発（J. Reprod. Dev. 52: pp. 1-11, 2006）

轟木淳一1)・金子浩之2)

1)鹿児島県　肝属家畜保健衛生所
2)（独）農業生物資源研究所

卵胞嚢腫は排卵をともなわず主席卵胞の過剰な発育の結果、生じる繁殖障害である。卵胞嚢腫牛の重要な内分泌学的な特徴は、末梢血中のエストラジオール濃度が上昇するにもかかわらず、LHサージが発現しないことである。もう一つの特徴は、正常牛の黄体期に比較して高いLHのパルス状分泌であり、これは主席卵胞の持続的な発育を惹起している。このようなLH分泌の特徴は、エストラジオールによるLHのポジティブフィードバック調節の異常に起因するものと考えられる。一方、膣内留置型のプロジェステロン製剤（CIDR）は、1）LHのパルス状分泌を低下させ、2）視床下部の機能異常を矯正することによって、卵胞嚢腫を治癒させるものと考えられる。

［英文要旨＆PDF］

日本繁殖生物学会賞・技術賞
ハムスター及びウシの顕微受精の応用に関する研究（J. Reprod. Dev. 52: pp. 13-21, 2006）

堀内俊孝

県立広島大学生命環境学部　

ハムスターの卵細胞質内精子注入（ICSI）、円形精子細胞注入(ROSI)とウシのICSIの技術的な改善を行った。ハムスターは受精卵作出を試みられた最初の哺乳動物であるが，産子作出の報告はなかった。我々はハムスターICSIによる産子作出に成功した。成功の改善ポイントは，1）暗室の小さなライト下でICSIを行い，胚操作に使用した顕微鏡には赤いフィルターを装着したこと，2）アクロソームのない精子を注入したことである。光制御下で，アクロソームのない精子頭部を注入した大部分の卵子は正常に受精，卵割し，約50％が桑実期へ発生した。これらICSI胚の移植によって9匹（19％）の産子が得られた。さらに，注入前に細胞膜を壊した円形精子細胞を注入したハムスター卵子の約70％が正常に受精し，約50％が桑実期と胚盤胞期へ発生した。これらROSI胚の移植によって3匹（5％）の産子が得られた。一方，ウシのICSIでの主な改善は，1)注入直前に，運動精子の尾部を傷つけ不動化処理したのち，その精子を注入すること，2）ICSI後4時間にエタノールによって卵子を活性化処理することである。不動化処理精子を注入した卵子の約70％がICSI後4時間に活性化し，約30％が胚盤胞期へ発生した。ICSI胚の移植によって24頭の子牛（39％）が得られた。これらの結果は，ハムスターのICSI，ROSI，ウシのICSIで産子生産は可能であることを示している。今後は，産子生産の効率を高めるためのさらなる改善が必要である。

［英文要旨＆PDF］

日本繁殖生物学会賞・奨励賞
VEGFおよびGDF-9遺伝子導入による卵胞発育促進（J. Reprod. Dev. 52: pp. 23-32, 2006）

清水　隆

帯広畜産大学大学院畜産衛生学専攻生殖科学研究室

哺乳動物卵巣の卵胞発育は、内分泌、傍分泌および自己分泌など複雑な過程によって制御されている。卵胞発育には、4つの基本的な発育段階がある。すなわち、原始卵胞、一次卵胞、二次卵胞および三次卵胞（グラーフ卵胞）である。原始卵胞および一次卵胞が集まっている皮質部位には血管は少ない。これらの卵胞の発育は、卵子由来のGDF－9あるいは骨形成タンパク15（BMP－15）によって誘起される。我々は、ブタのGDF－9遺伝子を同定し、ブタ卵巣へ直接導入した。GDF－9遺伝子を導入した卵巣では、一次、二次および三次卵胞数が増加したが、原始卵胞数は減少した。一方、胞状卵胞の発育は、卵胞を囲んでいる莢膜細胞の中に存在する血管の増加と密接に関係している。この血管の増殖には血管内皮増殖因子（VEGF）が、重要な役割を果たしている。卵胞発育を促進させるために、ブタ卵巣へVEGF遺伝子を直接導入した。導入した卵巣の卵胞の顆粒層細胞および卵胞液では、VEGF120とVEGF164遺伝子発現およびVEGFタンパクが増加した。VEGF遺伝子を導入した卵巣では、多くの排卵卵胞が出現し、それらの周囲には多くの血管の増加が認められた。本研究で開発した排卵誘発法を応用すれば，一頭の優良個体からより多くの良質な卵子を採取することができる。すなわち，優良家畜の増産という動物生殖科学領域の応用に寄与するものと考えている。

［英文要旨＆PDF］

植物性エストロジェンとその代謝産物はウシ黄体の黄体刺激因子に対する感受性を抑制する（J. Reprod. Dev. 52: pp. 33-41, 2006）

Katarzyna K. Piotrawaska1)・Izabera Woclawek-Potocka1)・Mamdou M Bah1)・Mariusz Piskula2)・Wojciech Pilawski1,3)・Aleksandra Bober1)・Dariusz J. Skarzynski1)

1)Department of Reproductive Immunology, Institute of Animal Reproduction and Food Research, Polish Academy of Sciences, Poland
2)Department of Food Technology, Institute of Animal Reproduction and Food Research, Polish Academy of Sciences, Poland
3)Department of Pathology and Pharmacology, Faculty of Veterinary Medicine, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Poland

本研究は、植物性エストロジェンの活性代謝産物（equolおよびpara-ethyl-phenol）がウシ黄体に及ぼす影響について、1）ウシ黄体の黄体形成ホルモン（LH）に対する感受性、ならびにパラクラインあるいはオートクラインに作用する因子（prostaglandin E₂ (PGE₂) およびprostaglandin F_2α (PGF_2α)）に対する感受性を抑制するかどうか、2）ウシ黄体からのパルス状プロジェステロン（P₄）分泌に影響を及ぼすかどうか、を調べることを目的とした。未経産牛あるいは経産牛に、植物性エストロジェンが豊富な大豆（2.5 kg/animal/日）を含む飼料（大豆飼料）を給与したin vivo の実験では、標準的な成分の飼料（標準飼料）を給与した対照と比べて、血漿中および黄体組織中のequolおよびpara-ethyl-phenol濃度が高くなり、それに伴いP₄濃度は低くなった（p<0.05）。PG類およびLHは、標準飼料を給与されたウシの黄体・からのP₄分泌をin vitroで強く刺激したが（p<0.01）、大豆飼料を給与されたウシの黄体・からのP₄分泌は刺激しなかった。次に、植物性エストロジェンの活性代謝産物が、LH刺激による黄体からのパルス状P₄分泌に影響を及ぼすかどうかを、マイクロダイアライシス法を用いて調べた。黄体をequolあるいはpara-ethyl-phenolで240分間潅流し、生理食塩水で潅流した対照とP₄分泌を比較したが、基底分泌およびパルス状分泌のいずれについても影響は認められなかった。しかし、LH刺激によるP₄分泌は抑制された。これらの結果から、植物性エストロジェン類およびそれらの代謝産物は、PGおよびLHにより刺激されるP₄分泌を抑制することにより黄体機能をかく乱していることが推測された。

［英文要旨＆PDF］

生後発育に伴うウシ精巣のα-SMAおよびvimentinの免疫組織化学的局在（J. Reprod. Dev. 52: pp. 43-49, 2006）

Bhuminand DEVKOTA1,2,3)・佐々木基樹1,4)・高橋健一5)・松崎重範5)・松井基純1,2)・羽田真悟1,2)・高橋正弘6)・大澤健司1,7)・三宅陽一1,2)

1)岐阜大学大学院連合獣医学研究科
2)帯広畜産大学臨床獣医学講座
3)Tribhuvan University, Nepal
4)帯広畜産大学基礎獣医学講座
5)ジェネテクス北海道
6)小岩井農牧（株）技研
7)岩手大学農学部獣医学科

生後の発育過程におけるウシ精巣内のα-SMAとvimentinの免疫組織化学的局在を検討した。精巣の曲精細管や直精細管および精巣網周囲の筋様細胞と直精細管や精巣網の間を占める間質においてはα-SMAは生後4か月頃から発現することを認めた。曲精細管周囲の筋様細胞におけるα-SMAは5か月頃には成熟パターンに到達したが、直精細管や精巣網周囲の筋様細胞や間質の細胞では発育とともに増加した。Vimentinは、セルトリ細胞の核周囲、精細管周囲や血管の壁の細胞、少数の間質の細胞、直精細管と精巣網の上皮基底部での局在が認められた。発育に伴うvimentinの変化はセルトリ細胞においてのみ明瞭で、出生時にはセルトリ細胞の核基底部での発現は僅かであったが、4か月まで次第に増加していった。5-8か月頃の精巣では、セルトリ細胞の核が基底部から離れるといった形態的変化が認められるようになる。この時期には、vimentinに対する染色強度の顕著な増加が見られるとともに、セルトリ細胞の核から基底部にかけての特徴的なvimentinの伸張も確認された。しかし、この伸張は、核が基底部に再配置される9か月頃では、その形態的変化にあわせて短くなった。これらの結果から、α-SMAの発現は精子形成の開始と相関があり、vimentinはセルトリ細胞の形態変化に伴う核の安定性にとって重要な役割を担っているものと思われた。

［英文要旨＆PDF］

ヌードマウスに異種間移植したブタ原始卵胞由来卵母細胞の体外ならびに体内発生能（J. Reprod. Dev. 52: pp. 51-57, 2006）

菊地和弘1)・金子浩之1)・中井美智子1,2)・野口純子1)・小沢　学1)・大沼克彦1)・柏崎直巳2)

1)（独）農業生物資源研究所遺伝資源研究グループ
2)麻布大学獣医学部

ヌードマウスに異種間移植したブタ原始卵胞由来卵母細胞の発生能を調べた。20日齢の子豚より卵巣組織（原始卵胞が全卵胞の96％を占める）を採取し、卵巣を摘出したヌードマウスの腎皮膜下に移植した。卵巣組織移植後、49から89日日後（平均値 ± 標準誤差，66.9± 1.9日；n=64）にヌードマウスの膣スメアがはじめて角化像を示した。角化像の確認から60日後にウマ絨毛性性腺刺激ホルモン（eCG）4 IUをマウスに投与した。eCG投与48時間後に卵母細胞を採取し、体外成熟を行った。第一極体を指標にした成熟率は25.1から 42.5％であった。ついで、体外受精を行い、6日間の体外培養、あるいは媒精直後に性周期を同調させた借り腹に移植し6日後に回収した。体外培養6日目では、体外成熟卵の15.4％に2-8細胞期胚が認められた。しかし、体外培養した、あるいは移植・回収した胚ともに、桑実胚や胚盤胞への発生は認められなかった。これらの結果より、異種間移植組織由来の卵母細胞には体外成熟培養を行っても十分な発生能が備わっていないことが示唆された。移植組織から回収した卵母細胞に胚発生を支持する細胞質成熟を与えるためには、マウスへのホルモン処理等の改良が必要であることが推察された。

［英文要旨＆PDF］

飼育下の雌ベルーガ（Delphinapterus leucas）における卵巣周期検出のための基礎体温測定の有用性（J. Reprod. Dev. 52: pp. 59-63, 2006）

勝俣悦子1)・古田千恵2,3)・勝俣　浩1)・渡辺　元2,3)・田谷一善2,3)

1)鴨川シーワールド国際海洋生物研究所
2)岐阜大学大学院連合獣医学研究科基礎獣医学連合講座
3)東京農工大学農学部獣医学科獣医生理学研究室

本研究では飼育下における雌ベルーガの基礎体温と血中プロジェステロン濃度の相関関係について詳細に調査した。基礎体温は毎朝、血中プロジェステロン濃度は2-4週間隔で1996年から2003年までの8年間測定した。雌ベルーガは、2000年の4月（推定13歳）に春機発動が観察された。その後、血中プロジェステロン濃度は、周期的な変動を示し、正常な発情周期が回帰したことが確認された。血中プロジェステロン濃度は、0.1 ng/ml から15.7 ng/mlの間で変動した。プロジェステロン濃度と同様に基礎体温も発情周期に同調した変化が認められた。基礎体温は、34.9℃ から35.9℃の範囲で変化し、黄体期に高い傾向を示した。交尾行動は、低体温期においてのみ観察された。体温と血中プロジェステロン濃度には、正の相関関係が認められた。雌ベルーガの平均発情周期の長さは、交尾行動が認められた日から次の交尾行動が認められた日までを一周期とした場合に、36.7±3.9 （平均値±標準誤差）日であった。本研究において、初めて飼育下の雌ベルーガにおける発情周期中の基礎体温の周期的変動が明らかとなった。本研究の結果は、飼育下において基礎体温の測定が卵巣周期を予測するのに有用な方法であることを示唆するものである。

［英文要旨＆PDF］

シャチ（Orcinus orca）の分娩前後における体温および血中プロジェステロン濃度（J. Reprod. Dev. 52: pp. 65-71, 2006）

勝俣悦子1)・Sukanya Jaroenporn2,3)・勝俣　浩1)・金野征記4)・前田義秋4)・渡辺　元2,3)・田谷一善2,3)

1)鴨川シーワールド国際海洋生物研究所
2)岐阜大学大学院連合獣医学研究科基礎獣医学連合講座
3)東京農工大学農学部獣医学科獣医生理学研究室
4)鴨川シーワールド海洋哺乳類部門

シャチ（Orcinus orca）の分娩前後における体温および血中プロジェステロン濃度の変化について研究した。体温は、毎朝運動を開始する前の朝8時から8時30分の間に測定した。体温は、妊娠初期に明らかな上昇を示し、その後緩徐な下降を示した。妊娠初期に認められた体温の上昇は、血中プロジェステロン濃度の上昇と有意な正の相関を示した。一方、分娩5日前から体温の有意な下降が認められ、その後出産まで2日間隔で有意な下降が認められた。シャチの体温は、分娩5日前には、妊娠期平均体温から0.3Ｃ低下しており、分娩1日前になると0.8Ｃまで低下した。妊娠期における血中プロジェステロン濃度は、初期の急激な上昇期、続いて分娩後半における緩除な下降期という典型なパターンを示した。しかし、体温および血中プロジェステロン濃度との正の相関関係は上昇期においてのみ認められ、下降期には有意な相関関係は認められなかった。以上の結果から、体温の測定は、シャチの分娩日を予測するのに有用な手段であることが判明した。

［英文要旨＆PDF］

マウスSry遺伝子のmRNAをin vitroならびにin vivoで開裂するハンマーヘッド型リボザイムの設計（J. Reprod. Dev. 52: pp. 73-80, 2006）

中村香織1)・村田千怜1)・伊藤雅方2,3)・岩森督子1,3)・西村誠一郎1)・久松　伸4)・其木茂則4)・中山　文2)・須山英悟2,5)・川崎広明2,5)・多比良和誠2,5)・西野光一郎6)・舘　鄰1,2,7)

1)麻布大学獣医学部発生工学研究室
2)独立行政法人産業技術総合研究所ジーンファンクション研究センター
3)東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻応用遺伝学研究室
4)麻布大学環境保健学部環境化学研究室
5)東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻RNA工学研究室
6)東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻細胞生化学研究室
7)三菱化学生命科学研究所マウスゲノム工学センター

雌動物の需要が高い家畜における、出生時性比の人為制御にリボザイム技術を応用する可能性を探索する研究の第一歩として、Sry mRNAに対するハンマーヘッド型リボザイム1種類（HHRz）および、tRNA^val-ハンマーヘッド複合型リボザイム2種類（tRNARz3 and tRNARz4）を設計した。これらリボザイムの効果をin vitroで調べたところ、HHRzとtRNARz3がSry mRNA を効率的に開裂することが確かめられたので、さらに、発現ベクターに組み込み、細胞内での効果を調べた。HHRzは、哺乳類細胞における強力な発現ベクターとして知られる pUC-CAGGS に組み込み（pCAG/HHRz）、また、tRNARz3 と tRNARz4は、pol III promoterによって駆動され、小分子のRNAを高効率で発現することで知られるベクターpPUR-KEに組み込んだ（pPUR/tRNARz3 and pPUR/tRNARz4）。一方、ターゲットは、Sry遺伝子をpUC-CAGGSに組み込んで作成した(pCAG/Sry)。ターゲット（pCAG/Sry）、ならびに、リボザイム（pCAG/HHRz、または、pPUR/tRNARz3）の発現ベクターを、マウス中腎由来のM15細胞株（核型XX）に、同時トランスフェクションを行い、一過性に発現するSry mRNAに対する効果を調べたところ、Sry発現の最大約60％を抑制する効果が認められた。

［英文要旨＆PDF］

分娩後早期黒毛和種牛におけるCIDR併用もしくはOvsynch定時人工授精法の処置中における血漿中IGF-I濃度と受胎との関係（J. Reprod. Dev. 52: pp. 81-89, 2006）

川手憲俊1)・坂瀬充洋1,2)・瀬尾泰隆1)・福島護之2)・野田昌伸2)・武田和士2)・上野　悟2)・稲葉俊夫1)・喜田加世子1)・玉田尋通1)・澤田　勉1)

1)大阪府立大学大学院・生命環境科学研究科・先端病態解析学講座
2)兵庫県立農林水産技術総合センター・北部農業技術センター

分娩後早期の黒毛和種牛において、CIDR併用もしくはOvsynch定時人工授精法を行い、その処置中の血中インスリン様成長因子（IGF）-I濃度の変化を調べて、受胎およびステロイドホルモン濃度との関係について検討した。対照群（n=21）にはOvsynch法（0日目にGnRH、7日目にPGF2α、9日目にGnRHを投与）を実施し、2回目のGnRH投与から約20時間後の10日目に人工授精を実施した。Ovsynch+CIDR群（n=22）にはOvsynchにCIDRを加えた（0日目から7日間の留置）処置を行った。EB+CIDR+GnRH群（n=22）にはOvsynch+CIDR法の1回目のGnRHの代わりに2 mgのエストラジオールベンゾエート（EB）を投与する処置を行った。-7、0、7、9および17日目の血漿中IGF-I濃度を測定した。-7、0および7日目の血中IGF-I濃度の低い（＜1,000 ng/ml）牛群においては、CIDR併用の両群を合併したCIDR合併群の受胎率はOvsynch群に比較して高くなったが（P＜0.05）、同濃度の高い（≧1,000 ng/ml）牛群ではそのような受胎率の差は生じなかった。Ovsynch群で0日目のIGF-I濃度の低い牛の血中エストラジオール-17β濃度は0日目から7日目へと増加し（P<0.05）、7日目から9日目までは変化しないが、同群のIGF-I濃度の高い牛およびCIDR合併群では、0日目から7日目へは変化せずに、7日目から9日目へと増加した（P＜0.05）。また、Ovsynch群で0日目のIGF-I濃度の低い牛の14日目の血中プロジェステロン濃度は、同群のIGF-I濃度の高い牛およびCIDR合併群に比較して、高い値を示した（P＜0.05）。結論として、処置開始時の血中IGF-I濃度が低い分娩後早期肉用牛に定時人工授精を行う際に、CIDR併用法はOvsynch法に比べて、受胎率を向上させる可能性が示唆された。その向上は、IGF-I濃度の低いOvsynch処置牛でみられる、時期尚早のエストラジオールとプロジェステロン濃度の上昇を、CIDRで防止することに起因するのかもしれない。

［英文要旨＆PDF］

PZM-3あるいはウシ胎児血清を添加したPZMにおけるブタ単為発生胚および体外受精胚の発生（J. Reprod. Dev. 52: pp. 91-98, 2006）

岡田幸之助1)・Krylov Vladimir1,2)・Kren Radomir1)・Fulka Josef Jr.1)

1)Center for Cell Therapy and Tissue Repair, VUZV Laboratory, Prague, Czech Republic
2)Charles University in Prague, Faculty of Science, Prague, Czech Republic

高品質な（細胞数の多い）ブタ胚盤胞を数多く作出できる体外培養系を作る目的で、電気刺激による単為発生胚ならびに体外受精（IVF）胚をporcine zygote medium（PZM）を用いて種々の条件下で培養した。実験1では基本となる培養環境について検討した。それぞれの胚を4穴培養皿、培養液をパラフィンオイルで覆った4穴培養皿、あるいはオイルで覆った培養液の小滴中で培養した。培養7日後、0％、33％および20％の単為発生胚が、11％、23％および20％のIVF胚がそれぞれ胚盤胞へ発生した。この結果より、以降の実験には培養液をオイルで覆った4穴培養皿を用いた。次に、培養液の交換が胚発生に及ぼす影響を調べた。培養液を培養2および4日目に交換したところ、34％の単為発生胚ならびに38％のIVF胚が胚盤胞へと発生した。さらに、胚盤胞への高い発生率がPZMにウシ胎児血清を添加した場合（PZM-FBS）に得られた。すなわち、培養4日目以降にPZM-FBS中で胚を培養したところ、47％の単為発生胚および49％のIVF胚が胚盤胞期に達し、これら胚盤胞の平均細胞数も本実験において最大となった（単為発生胚: 57±7.7、IVF胚: 60±6.1）。本実験の結果は、培養期間中の培養液の交換および培養後期におけるウシ胎児血清の添加が、高品質なブタ胚盤胞の作出に有効であることを示している。

［英文要旨＆PDF］

マウス卵におけるhistone deacetylase 4の発現（J. Reprod. Dev. 52: pp. 99-106, 2006）

影山俊一郎・劉　紅林・永田昌男・青木不学

東京大学大学院新領域創成科学研究科

卵形成は配偶子を作り、ゲノム情報を次世代へと引き継いでいく上で極めて重要な過程である。この過程では、ゲノム情報は安定に維持されているが、発現する遺伝子は大きく変化している。また、ゲノムリモデリングもこの時期に引き起こされていると考えられている。ヒストンアセチル化は卵形成の過程で大きく変化していくことが明らかにされており、ゲノムリモデリングとの関連が示唆されている。このヒストンアセチル化の変化の機構を明らかにするため、未受精卵と受精卵の間でサブトラクション法を用い、ヒストンアセチル化制御に関わる遺伝子を探索した。その結果、限定された組織のみで発現することが知られるhistone deacetylase 4（HDAC4）が単離された。HDAC4は成長卵（fully grown oocyte; FGO）から未受精卵にかけて発現し、それ以降は減少していく事がRT-PCRにより示された。また免疫染色法によりHDAC4蛋白質の検出を行った結果、FGOでのみ核に局在が確認された。一般にHDACはヒストンを脱アセチル化し、転写を負に制御することが知られているが、HDAC4はヒストンが高度にアセチル化されることが知られているFGO特異的に局在が見られた。この結果はHDAC4がヒストン以外のタンパク質を基質とし、転写制御以外の機能を有していることを示唆している。この可能性を検証するため、我々はHDAC4と共訳してDNAダメージ修復に働くp53BP1の発現をRT-PCRにより調べた。その結果、HDAC4と類似した発現パターンが確認された。これらの結果は、HDAC4がFGO中でp53BP1と共役してDNA修復機構に関わって、配偶子のゲノム情報維持に重要な役割を担っていることを示唆するものである。

［英文要旨＆PDF］

インヒビンの能動免疫がウシの性腺刺激ホルモン分泌及び卵胞発育に及ぼす影響（J. Reprod. Dev. 52: pp. 107-113, 2006）

Mohamed S. Medan1,2)・武富敏郎3)・青柳敬人3)・小西正人3)・矢澤慈人4)・渡辺　元1,5)・田谷一善1,5)

1)東京農工大学農学部獣医学科獣医生理学研究室
2)Department of Theriogenology, Faculty of Veterinary Medicine, Suez Canal University, Ismailia, Egypt
3)全国農業協同組合連合会受精卵移植センター
4)全国農業協同組合連合会家畜衛生研究所
5)岐阜大学大学院連合獣医学研究科基礎獣医学連合講座

本研究では、雌ウシにおけるインヒビンの能動免疫がFSHとLH分泌及び卵胞発育・排卵へ及ぼす影響について研究した。成熟雌ウシ13頭にインヒビンα鎖を免疫した。6頭は対照群とした。最初の免疫から7、14、21及び34週間後にそれぞれブースター投与を行った。2、3及び4回目のブースター投与後、25日間毎日超音波画像診断装置により卵巣を観察した。4回目のブースター投与後、毎日採血して血中FSHとLH濃度を測定した。インヒビン免疫牛では、対照群に比較して血中FSH濃度が高値を示した。インヒビン免疫牛の卵胞発育波数は3～4回で、対照群の2～3回に比べて多く、また、発育卵胞数も対照群に比べて多かった。最初の卵胞発育波における卵胞数は、インヒビン免疫牛で14.8±1.7個、対照群で5.4±0.2個であり、排卵に至る卵胞発育波では、インヒビン免疫牛で13.9±1.9個、対照群で5.6±0.7個であった。インヒビン免疫牛では、過剰排卵が増加したが、排卵数は、変動が大きかった。以上の結果から、インヒビン能動免疫牛では、発情周期中に卵胞発育波数と卵胞数の増加が認められることが判明した。インヒビン能動免疫法は、ウシにおける胚移植プログラムの卵採集法として有用であると考えられた。

［英文要旨＆PDF］

雌ラットのパルス状黄体形成ホルモン分泌調節における分界条床核のアドレナリン受容体の役割（J. Reprod. Dev. 52: pp. 115-121, 2006）

山田俊児・上野山賀久・前多敬一郎・束村博子

名古屋大学大学院生命農学研究科

分界条床核（BNST）には脳幹から多数のノルアドレナリン（NA）作働性神経が投射していることが知られている。本研究は、パルス状黄体形成ホルモン（LH）分泌調節におけるBNSTのNA受容体の果す役割を解明する事を目的とした。卵巣除去（OVX）あるいは卵巣除去後直ちにエストロジェン含有シリコンカプセルを皮下に植込んだラット（OVX+E₂）のBNSTにNA、フェニレフェリン（α1－作動薬）、クロニジン（α2－作動薬）、あるいはイソプロテレノール（β－作動薬）を採血開始直後から1時間間隔で計3回投与した。6分間隔3時間の採血を行い、血漿中LH濃度を測定した。OVX+E₂群ではBNSTへのNAあるいはα1－作動薬の投与により、パルス状LH分泌が顕著に抑制され、平均血中LH濃度及びLHパルス頻度が対照群に比べ有意に（P＜0.05）減少した。一方、α2－あるいはβ－作動薬の投与はLHパルスの各パラメーターに対し有意な影響を及ぼさなかった。一方OVX群においてNA投与はLHパルスに何ら有意な効果を示さず、α1－作動薬投与がLHパルス頻度を有意に減少させたのみであった。以上、BNSTへのNA入力がα1－受容体を介してパルス状LH分泌を抑制すること、またこの効果はエストロジェンにより増強されることが示唆された。

［英文要旨＆PDF］

成熟培養時間がウシ胚盤胞期胚の性比におよぼす影響（J. Reprod. Dev. 52: pp. 123-127, 2006）

Budiyanto Agung1)・音井威重1)・Pimprapar Wongsrikeao1)・谷口雅康1)・清水良平1)・渡　一2)・永井　卓3)

1)山口大学農学部獣医学科
2)（株）栄研化学
3)（独）農業・生物系特定産業技術研究機構・畜産草地研究所

体外受精時の卵母細胞の成熟ステージが胚の性に影響することが示唆されているが、卵母細胞の成熟時間と作成された胚の性についての関連性に関する報告は少ない。本研究では、体外成熟培養時間が体外受精後の牛胚の性に及ぼす影響についてloop-mediated isothermal amplification（LAMP）法を用いて検証した。屠畜場由来の牛卵巣から採取した卵母細胞を16、22、28または34時間、成熟培養し、凍結融解精子を用いて体外受精・体外培養した。媒精後7日目に発生した胚盤胞の性をLAMP法により調べた。第二減数分裂中期に達した卵母細胞の割合は、16時間成熟培養区が他の区に比べて有意に低下し、体外受精後の胚盤胞発生率は22時間体外成熟培養区が他の区に比べて有意に高値を示した。一方、雄胚の割合は成熟培養時間が延長するに従い高くなり、34時間成熟培養した卵母細胞由来の雄胚の割合は、16および22時間体外成熟培養した卵母細胞由来胚に比べて有意に増加した。以上の結果から、体外受精胚の性は卵母細胞の成熟培養時間により影響を受けることが示唆された。

［英文要旨＆PDF］

ウシ主席卵胞のLH サージへの暴露は黄体形成に不可欠である（J. Reprod. Dev. 52: pp. 129-135, 2006）

林　憲悟1)・松井基純2)・Tomas J. Acosta1)#・木田克弥3)・宮本明夫1)

1)帯広畜産大学・畜産科学科・生殖科学研究室　
2)帯広畜産大学・獣医学科・臨床獣医学講座
3)帯広畜産大学・畜産フィールド科学センター
#現所属：岡山大学大学院・自然科学研究科・生殖内分泌学研究室

本研究は、主席卵胞の排卵時の卵胞破裂およびLHサージへの暴露が黄体形成に及ぼす影響について検証するため、発情周期中の異なる時期に主席卵胞を吸引することで排卵現象を模し、吸引部位における黄体形成の有無を観察した。黄体期中期のホルスタイン種経産牛にPGF2αを投与して黄体退行を誘起後、以下の3群で主席卵胞を吸引した。黄体期群（n=5）：PGF2α投与48 h後にGnRH 投与により排卵を誘起し、GnRH 投与7日後に第1卵胞波の主席卵胞を吸引した。LHサージ前群（n=5）：PGF2α投与42 h後に主席卵胞を吸引した。LHサージ後群（n=4）：PGF2α投与48 h後にGnRH 投与によりLHサージを誘起し、GnRH 投与24 h後に主席卵胞を吸引した。対照区（n=5）はPGF2α投与48 h 後にGnRH を投与して排卵を誘起した。カラードップラー超音波診断装置による卵巣観察および採血は、Day 0（卵胞吸引日）、3、6、9に行った。主席卵胞吸引後、LHサージ後群のみで吸引部位に血流を伴う黄体形成が観察された。黄体の大きさ、黄体周辺部の血流の状態および血中プロゲステロン濃度の推移は、対照区と差異はなかった。黄体期群およびLHサージ前群では、吸引部位に血流および黄体形成は観察されなかった。以上のことから、卵胞破裂よりも主席卵胞がLHサージに暴露されることが、その後の黄体形成に不可欠であることが示された。

［英文要旨＆PDF］

ウシ少数胚の体外発生に及ぼす培養密度の影響ならびに胚培養調製液の添加による発生促進（J. Reprod. Dev. 52: pp. 137-142, 2006）

藤田達男・梅木英伸・志村英明・久々宮公二・志賀一穂

大分県農林水産研究センター畜産試験場

初期胚を体外培養する際に、培養胚数が少ないと胚盤胞発生率が低下することが知られている。本研究では、少数胚の発生向上を目的として、少数胚の発生に及ぼす胚培養密度の影響ならびに、胚培養調製液の添加による発生促進効果について検討した。屠場由来ウシ卵子を成熟培養－体外受精した後、1胚あたりの培養液量を5 �lにして1～5胚の発生培養を行った結果、培養ドロップあたり2胚以下と比較して5胚で胚発生率は有意（p<0.05）に向上した。また、胚を多数培養する際に、培養の過程で新鮮培養液と交換した場合、媒精後2～4日目での培養液交換は5～6日目での培養液交換より有意（p＜0.05）に発生率を低下させた。このことから、初期（媒精後2～4日目）の胚発生は、胚自身が分泌する因子によって促進されること、および培養胚数が多いほど胚発生促進作用が高いことが推察された。さらに、多数胚培養液を調製液として単一胚培養液に添加することによって、単一胚の胚盤胞発生率が有意（p＜0.05）に向上した。このことから、胚発生環境改善因子を含むと考えられる発生初期（媒精後2～4日目）の多数胚培養液を少数胚培養液に添加する手法は、生体内卵子吸引－体外受精による個体別少数胚生産を行う際の発生率改善に有効と思われた。

［英文要旨＆PDF］

　